smkw's diary - 名称未設定 のコピー 2

日記などその他雑感、眠れない夜の衝動的な書き物。

雑感: SAO、実はSFとして面白いのではないか説

オタクくんはSAO見てますか。

前提としての中級オタク

わたしは基本的に俺TUEEEな展開を小馬鹿にしているので、「俺は本気でSAOが好きだ」という方には本当に申し訳ないですが、SAOが「意外に」面白い、という言い方をします。

アニメを見ているか。そう職場や学校で聞かれたことはあるでしょうか。そこであなたは「ワンピース大好きですよ!」と無垢な返事をするようなライトな層のオタクさん*1でしょうか。あるいは「時々…見ます」等といった、どこか後ろめたい思いをしながら本音を隠した経験があるオタクくんでしょうか。わたしは後者です。今どきアニメ視聴を隠す必要もないのでは?と思えるご時世ですが、恥ずかしいものは恥ずかしいものです。

オタクにとって一般教養的なアニメは一通りと言っていいほど見てはいるけど、設定資料を集めて本気の考察をしたり、完璧に萌え豚と化して缶バッチを集めたりした記憶はない──が、一応その辺のカスよりアニメを理解しているつもりなので、社会的には恥ずかしいと思いつつもライトな層とは一線を引き、自分はディープな層に寄っていると密かに考えている。という、本物のカス。これぐらいのオタクをわたしは中級オタクと勝手に呼んでいます。一般教養的なアニメ? なんですかそれは。そんなものはありません。

そんな中級オタクにとって、もはやメジャータイトルのようにメディア露出が盛んになったSAOは盲点になっているのではないでしょうか。

なぜなら中級オタクの基本スタンスは逆張りだからです。

あなたはSAOを見ていないのではありませんか?

もしやあなたの周りでは「今期なんのアニメ見てる?」と聞かれた時「SAOを見ている」と言うと、「えw マジ?」などと半笑いで返される空気さえあるのではないでしょうか*2

でもそれはSAOを見くびっていることに他ならないし、あなたも含め、あなたの周囲の人間が例外なく中級であることの何よりの証拠です。

 

今SAOで何をやっているのかというと

わりとハードなSFがぶっこまれている。ハードSFとは何ぞやという話は細かく触れたくないけど、SAOの世界ではつまり以下のような技術開発が進んでいる。

 

魂を丸ごと仮想世界にダイブさせることで、今までにない没入感を得られる新技術が考案されている。これを利用し、生まれたばかりの赤ちゃんの魂を丸ごとコピーし、仮想世界の中で育成ゲームのように人工知能として育てている。仮想世界の時間は何倍にも加速されている。だから恐ろしい速さでコミュニティが形成される。これを観察し、今までにない「柔軟な思考」を持つ人工知能の発生を待っている……。

 

「魂をコピーする」ってなんだよ。

 

ここで言われている「柔軟な思考」というのは「人間が規則に対してもつ柔軟性」のようなものを言う。すなわち、自分で不要だと思った規則を破棄し、自らの考えで行動しようとする、ある種いい加減な部分のこと。

ロボットにはロボット三原則というものがある。ロボットは人間を殺すことができないのが決まりになっている。しかし「柔軟な思考」を手に入れたロボットはどうだろうか。人間は人間を殺すことができる。ロボットもロボット三原則を超えて人間を殺せるようになるかもしれない。そしてこれが兵器転用できれば新しいビジネスになるかもしれない。人間のように柔軟な思考を持った人工知能を知育しよう──。

こういったストーリーを持つ技術開発が物語全体の背景として存在している。

 

個人的には赤ちゃんの要素をコピーして人工知能にしようって発想がちょっとサイコ入ってて好きです。*3

 

新技術と今期の話

新技術による仮想世界ダイブと、既存の仮想世界ダイブはどう違うというのか。

──没入感が段違いとのこと。

いわく、仮想世界にいるという認識自体がなくなってしまうそう。没入者は自分が元からその世界の住人だと例外なく思い込んでしまう。外の世界があるとはまったく疑わない。考えることさえしない。それは夢の中にいるのと似たような感覚になるという。

 

ところで、今期のSAOのお話はキリト君が暴漢に襲われ、意識不明の重体になり、植物状態になってしまうところから始まる*4。そもそもキリト君はこの新技術の治験のバイトに参加しており、その縁から上述したような世界の大掛かりなストーリーに巻き込まれることになる。キリト君の治療チーム(というか新人工知能開発チーム)の目的は、植物状態にあるキリト君を仮想世界に繋げることで、キリト君の魂を内から刺激し、神経網の回復を促すこと。そして、規則正しく回り続ける人工知能の社会にリアルな人間を投入することで、何らか動乱を期待すること(どちらかといえばこっちが主目的で、キリト君は体のいいモルモットだ)。

 

キリト君が投入された世界──人工知能の培養地になっている世界は、いつも通り剣と魔法の世界になっている。ただ、この世界では魔法を「システムコールhogehoge(関数名)」と詠唱したりする。この世界の住人は関数の呼び出しを魔法と思い込んでおり、システム開発者やインターフェースにあたるプログラムを自分たちの始祖として崇めている。ここがポイント。

彼らは宗教的であり、きわめて規則に従順で、勤勉に生きている。誰も法を犯すことがない。倫理観の欠けたキャラクターも登場するにはするが、彼らも彼らなりの「法」を遵守した上で己の欲求を満たそうとする。例えば、ある悪徳貴族のプログラムは悪法を守ることで初めて悪事を働くことができるように作られている。

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ソードアート・オンライン アリシゼーション 10話

画像は貴族キャラクター(上)が平民キャラクター(下)を強姦するシーンの一部。この世界では貴族による平民への命令は絶対で、その絶対性はプログラムの仕様として決まっている。だから貴族が平民を襲うことは世界基準で合法で、逆に平民が貴族に逆らうのは世界基準で違法。プログラムであるキャラクターたちは例外なく違法な行動を取れない。そんな行動はプログラムされていない。体が強制的に動かなくなる。だから彼女たちは抵抗することもできず、犯されるままになる。でもそれは世界基準で見れば何の問題もないこととして成立している。だってそういうプログラムだから。

良いも悪いも全て論理の上に乗っかっている。逆ではない。

 

こうした世界を旅しながらキリト君は周囲の人工知能たちを少しずつ変えていく。リアルな人間はプログラムと違い、必ずしも規則に縛られるとは限らない。彼の周囲には少しずつ規則に逸脱した行動を取る人工知能が増え始め、それは新人工知能開発チームの思惑通りの展開なのだった……。

 

というのが今期のお話。「魂」云々を置いとけば、わりと強固なストーリーになっているような気もする。飛浩隆の『グラン・ヴァカンス: 廃園の天使』感がある。起こる事象はいつものSAOなのだが……。

 

もしかして意外に SFでは?

ある一つの技術を軸にして物語が進行していることが、SFとして非常に優秀ではないかと思っています。

ある特異な技術があれば、それによって個人や社会がどう変化するかが予想できる。あるいは、特異な個人や社会が存在すると、そこからどのような技術が要請されるかが予想できる。技術ー個人ー社会連関をシミュレーションをすることはSFの一つの役割と言っていいのではないでしょうか。あまり大きな主語は使いたくないですが、日頃からそんな風に思っています。*5

 

SAOについて言うと、2期の最後の方でも以下のようなストーリーがあり(ネタバレですけど)、「意外に」いい線行ってると思う。。。

 

フルダイブ技術を終末医療の緩和ケアに利用してみた。すると、常時プレイしっぱなしのアカウントができた。彼らの身体感覚は仮想世界に最適化され、最強のゲーマーとして仮想世界で噂になる。しかし、そうした人間は一人ではなかった。同じ境遇のもの同士が仮想世界上に集まり、一種のコミュニティを形成していたのだ。彼らは他のゲーマーよりも現実世界で互いに結びつくことが極端に難しく、それゆえに関係性は特殊で、団結は固く、共通の目的に向かって動いている。アスナさんがそのムーブに巻き込まれることで物語は始まる。

 

SAOのストーリーは、仮想世界へのフルダイブ技術という軸に様々な要素を足し合わせることで成立しているように見えます。そして、SAOのようにシリーズが続く作品の場合は、シリーズの続投と共に、当然その世界のシミュレーションも更新されることになります。

ある新しい技術が開発される。それによって個人や社会のあり方が変化する。そこからまた新しい技術が要請される。また個人と社会のあり方が変わる。この循環がTVアニメ第一期、第二期、第三期…と積み重なってゆくことで、作品世界で一貫した産業史や自然史が作られる。これがわたしの思うSFっぽさの一つであるし、SAOには「意外にも」そういう側面を持っているわけです。

 

つまるところ

中級オタクがSAOに興味を持ってもらえたなら嬉しいです。でも単純にストーリーが面白い/面白くないというのもあると思うので、ちゃんとお勧めはしないです。上記した2期の最後の方だって、うわっ面のストーリーはアスナさんTUEEEという感じで結構苦痛でしたので。

でもやっぱり「案外」面白くていいですよ。わたしはNTRと負けヒロインが好きです。SAOにはNTRと負けヒロインがたくさん出てきます。そういう意味でもいいですよ。

*1:オタクでは無いのかもしれない。

*2:実際あった。単芝やめろ。

*3:「魂」という言葉は、作中では「フラクタライト」という言葉で置き換えられているから、ロジカリストにも多少受け入れやすいようにはなっていると思う、たぶん。そのフラクタライトという言葉の説明に魂という言葉が使われているのはマジだが。

*4:本当はもうちょっと段階を踏む。

*5:「技術ー僕ーセカイ」と言うのもあると思う。